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【企業分析】トヨタ自動車(7203)の「今」と今後。決算から読み解く「強さ」と「慎重な見通し」

1. はじめに:トヨタ自動車の「現在地」

トヨタ自動車は、日本で最も時価総額の大きな企業であり、投資を始めたばかりの方が「最初の銘柄」として検討することも多いでしょう。「日本一の会社だから安心」と考える方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、どれほど大きな企業であっても、経営環境は常に変化しています。本記事の目的は、トヨタが2025年11月5日に発表した決算(企業にとっての「健康診断書」です)を読み解き、トヨタが「今、本当にどのような状況にあるのか」を、良い点も懸念点も中立的に解説することです。

現在のトヨタを分かりやすく表現するならば、「非常に強い『逆風』にさらされながらも、それを上回るほどの『追い風』によって前に進んでいる状態」と言えます。

具体的には、米国の関税政策という「逆風」がありながらも、本業であるハイブリッド車(HEV)の販売が絶好調という「追い風」が吹いています。この「逆風」と「追い風」の綱引きが、現在のトヨタの業績と今後の株価を理解する上で最も重要なポイントです。

2. 企業の「実力」分析:好調な滑り出しと、慎重な「1年間の見通し」

この章では、トヨタの「稼ぐ力」が今どうなっているのかを、最新の決算データから分析します。

2.1. 最新の業績(2026年3月期 第2四半期):「足元の業績は好調」

まず、最新の「健康診断書」の結果を見てみましょう。

トヨタが発表した2026年3月期 第2四半期決算(2025年4月1日から9月30日までの半年間)は、売上高にあたる営業収益が24兆6,307億円と、前年の同じ時期と比べて5.8%増加しました。これは、半年間の業績として過去最高を更新する勢いです。

この好調な売上を支えている原動力は、言うまでもなくトヨタの「お家芸」とも言えるハイブリッド車(HEV)の販売です。

世界的に「EV(電気自動車)でなければならない」という一辺倒の空気が変わり、充電インフラの心配がなく、現実的なエコカーとしてHEVが世界中で再評価されています。トヨタの発表によれば、2025年4月から9月のHEV販売台数は227.1万台と、前年の同じ時期から9.3%も伸びています。

この「売れ筋商品」が世界中で好調に売れていることが、トヨタの好調な売上の直接的な理由です。

ただし、売上は好調だった一方で、本業の儲けを示す営業利益は2兆56億円と、前年同期(2兆4,642億円)と比べて減少しました。この「増収減益」こそが、現在のトヨタが直面する「逆風」を端的に示しています。

表1:2026年3月期 第2四半期 業績ハイライト(2025年4月~9月)

項目当第2四半期累計 (A)前年同期 (B)前年同期比 (A/B)
営業収益24兆6,307億円23兆2,825億円+5.8%
営業利益2兆56億円2兆4,642億円△18.6% (△4,585億円)
純利益1兆7,734億円1兆9,071億円△7.0% (△1,336億円)
出典:トヨタ自動車 2026年3月期 第2四半期 決算資料等に基づき作成

2.2. 年間の業績見通し:「なぜ、通期では『大幅減益』予想なのか?」

投資初心者の方が最も混乱しやすいのが、この点です。「足元の半年間は好調だったのに、なぜ会社は『通期(1年間)の見通し』で営業利益が前期比29.1%減の3兆4,000億円になる、と慎重な予想を出しているのか?」。

その答えは、先ほど触れた「逆風」の正体、すなわち米国における関税政策の影響です。

会社側の説明によれば、この関税の影響だけで、営業利益が1兆4,500億円も押し下げられると計算されています。

この1兆4,500億円という数字の意味を「翻訳」すると、これはトヨタが通期で稼ごうとしている利益(3兆4,000億円)の実に4割以上(約42.6%)に相当する、とてつもなく大きな金額です。これが「非常に強い逆風」の正体です。

では、トヨタはこの巨大な逆風にどう対応しているのでしょうか。

トヨタの近健太CFO(最高財務責任者)は決算説明会で、「関税分をそのまま(機械的に)値上げすることはしない」と明言しています。

これは、短期的な利益(1.45兆円)をある程度犠牲にしてでも、長年築き上げてきた顧客との信頼関係や、北米市場でのシェアを守るというトヨタの「長期的な戦略」の表れです。

なぜトヨタは、このような「我慢」ができるのでしょうか。それは、トヨタが新車販売「以外」でも稼ぐ力を長年強化してきたからです。例えば、自動車ローンなどの「販売金融」や、部品・サービス、中古車といった事業です。これら「バリューチェーン」と呼ばれる「隠れた収益源」が分厚いクッションとなり、関税という巨大な衝撃を吸収する体力(=我慢する力)を生み出しています。これは他社が簡単に真似できない、トヨタの「隠れた強さ」と言えます。

表2:2026年3月期 通期業績見通し(会社予想)

項目通期見通し (A)前期実績 (B)前期比 (A/B)
営業収益49兆円48兆円 (※)+2.0%
営業利益3兆4,000億円4兆7,967億円 (※)△29.1%
うち、関税影響額(△1兆4,500億円)
出典:トヨタ自動車 2026年3月期 第2四半期 決算短信、関連報道に基づき作成 (※)前期実績は比較のためYahoo!ファイナンス等の一般的な公開データを参照

2.3. 円安(為替)が与える影響:「逆風」を和らげる「追い風」

トヨタの業績を語る上で欠かせないのが、為替(円相場)の影響です。トヨタは海外で多くの車を売っているため、「円安」は業績にとってプラス(追い風)になります。

トヨタの計算(為替感応度)によれば、対米ドルで「1円」円安になるだけで、年間の営業利益が「500億円」も増える計算です。

ここで重要なのは、会社が発表した「営業利益3兆4,000億円」という慎重な見通しは、この円安という「追い風」と、関税という「逆風」を両方織り込んだ(差し引きした)結果である、という点です。

もし円安の追い風がなければ、業績予想はさらに低いものになっていた可能性があり、いかに円安が関税のショックを和らげているかがわかります。

3. 企業を取り巻く「環境」分析:トヨタの戦略は「正しい」か?

この章では、トヨタが採っている「HEV(ハイブリッド)重視」の戦略が、今の市場環境と合っているのかを分析します。

3.1. EV(電気自動車)市場の競争激化と「PHEVの台頭」

世界のEV市場では、米国のテスラと中国のBYDによる競争が激化しています。そして2025年、ついに大きな変化が起きました。2025年第3四半期(1~9月)までの累計販売台数で、BYD(約160.6万台)がテスラ(約121.8万台)を大きく上回ったのです。

ここで投資家にとって非常に重要な点は、「なぜBYDはテスラに勝てたのか?」という理由です。

報道によれば、その大きな理由は、BYDがEV(純粋な電気自動車)だけでなく、PHEV(プラグインハイブリッド車)も含む多様な車種を揃えている点にあります。

これを「翻訳」すると、EV市場のトップ争いですら、「EVだけ」を売る会社(テスラ)よりも、「ハイブリッド車も売っている」会社(BYD)が優位に立っている、という事実が示されたのです。

3.2. ハイブリッド車(HEV)市場の再評価

前項のBYDの例や、世界的なHEV市場の成長(2025年から2030年にかけて年平均12.83%の成長予測)、そして日本国内でのHEVの好調な販売は、何を意味しているのでしょうか。

数年前、トヨタは一部で「EV化が遅れている」と批判されることがありました。しかしトヨタは、「EVも、HEVも、水素も、それぞれの市場やお客様の状況に合わせて提供する(全方位戦略)」という姿勢を崩しませんでした。

今、まさにそのHEVが「現実的なエコカー」として世界中で再評価され、BYDのような競合他社ですらPHEV(プラグインハイブリッド)で販売台数を稼いでいるのです。

この市場環境の変化は、HEVに最大の強みを持つトヨタの戦略が「正しかった」ことを証明しており、これが現在の好調な実売(2025年4~9月期の世界販売台数は過去最高)に直結しています。

テクニカルな計算値(同、3,100.3円)などが、「下値のめど」として意識される可能性があります。

4.1. 専門家(アナリスト)の評価

ここで、非常に興味深い点があります。それは、トヨタ会社自身と、市場の専門家(アナリスト)との「温度差」です。

  • 会社側の見方: 「通期は1.45兆円の関税影響で、大幅な減益(3兆4,000億円)になります」と、非常に慎重な見通しを出しています。
  • アナリスト側の見方: 決算発表後、多くの証券会社のアナリストたちは、トヨタの評価を「買い」や「強気」とし、目標株価を大幅に引き上げています

ある集計によれば、アナリストの平均目標株価は、この決算発表後の1週間で 3,228円から 5,264円へと急上昇しています。米系の大手証券会社も、目標株価を3,500円から3,800円に引き上げました。

なぜ、会社が「減益だ」と言っているのに、専門家は「強気(買い)」と判断するのでしょうか?

これを「翻訳」すると、アナリストたちは、1.45兆円の関税影響を「一時的なもの」あるいは「政治的なイベント」によるものと見ています。それよりも、彼らが注目しているのは、その「逆風」下でも、HEVの圧倒的な強さによって販売台数見通しを引き上げるほどの「本質的な実力」です。

さらに、関税分を安易に値上げしないというトヨタの「長期的な戦略」が、将来の市場シェアをより強固にすると高く評価しているのです。

つまり、「会社は『今年1年』の利益(関税込み)を見て慎重な姿勢を示し、アナリストは『将来』のトヨタの強さ(関税の影響を除く)を見て強気な姿勢を示している」という「目線の違い」が、この温度差を生んでいます。

5. 結論:今後の見通しと投資家が注目すべき点

ここまでの分析(実力・環境・値動き)を総括し、今後の展望を提示します。

5.1. 3つの時間軸で見た展望

  • 短期(1~3ヶ月程度):米国の関税政策に関する政治的なニュースや、日々の為替(円相場)の動きに、株価が左右されやすい展開が予想されます。また、新たな品質認証問題に関する続報(生産停止の有無や対策費用など)にも注意が必要です。
  • 中期(半年~1年程度):「1.45兆円の逆風」 に耐えながら、会社が発表した通期業績予想(営業利益3.4兆円)を達成、あるいは上回ることができるかが最大の焦点です。HEVの世界的な販売の勢いが、関税の逆風をどれだけカバーできるかが鍵となります。
  • 長期(1年以上):トヨタの「全方位戦略」が、BYDのようなハイブリッドとEVの両方で攻めてくる競合他社に対して、長期的な優位性を保てるかの真価が問われます。次世代電池やソフトウェアへの投資が、将来どのように収益に結びついてくるかを見ていく必要があります。

5.2. 今後、株価が動く「シナリオ」

最後に、投資を検討する方が今後「何に注目すべきか」を、株価が動く要因として整理します。

株価が上昇する場合に考えられる要因(注目点):

  • 【要因①】HEVの販売が加速する:世界的なHEVブームが続き、トヨタの業績予想が上方修正される場合(=関税の逆風をHEVの追い風が完全に圧倒する場合)。
  • 【要因②】関税影響が緩和される:米国の政策が変更されるなどして、1.45兆円と見込んでいたマイナス影響が想定より小さくなる場合。
  • 【要因③】円安がさらに進む:1ドル当たり1円で500億円の利益押上げ効果があるため、円安が続けば業績の上振れ要因となります。
  • 【要因④】品質問題が早期に鎮静化する:認証問題が大きな費用発生や生産停止に至らず、市場の懸念が後退し、収束に向かう場合。

株価が下落する場合に考えられる要因(注目点):

  • 【要因①】関税影響が悪化する:関税がさらに引き上げられる、または対象が拡大し、1.45兆円以上の業績圧迫要因となる場合。
  • 【要因②】急速な円高が進行する:円安という「追い風」がなくなり、関税の「逆風」が業績に直撃する場合。
  • 【要因③】品質問題が拡大する:認証問題が原因で、大規模な生産停止やリコール(回収・修理)費用が発生し、業績見通しが引き下げられる場合。
  • 【要因④】HEV需要が鈍化する:EVの急速な低価格化や、BYDなど他社のハイブリッド車の追い上げにより、トヨタの優位性が揺らぐ場合。

(免責事項)

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